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執筆者の写真naomikami

いもごねもち


いもごねもち。またもや幸せな食卓にありついてしまった。

おかさげ農園の大江栄三さんの元を訪ねた時のことだ。

 

褐色の冬景色の中、もくもくと湯気が上がり、私の好きな田舎の光景が飛び込んできた。大江さんは、ちょうど味噌づくりのために、焚き火で豆を煮ているところだった。

豆の色は緑色。鞍掛豆に少し似ている。これは飛騨高山の在来種"はところし"という豆だ。由来はおいしすぎて鳩が食べすぎて死んでしまうという説など諸説あるらしい。つまみ食いをさせてもらったら、枝豆のような香りの残る、美味しいお豆だった。

2日前、私も中川村で味噌を作っていた。この時期はあちらこちらで味噌づくり。季節を感じている。

  

奥様からの、どちらから来ましたかという問いに、諏訪から来ましたと答えると、色々な旅先の中、なぜ諏訪にいるのかと訊ねられた。それはここが縄文の銀座だから、と伝えると、きらりと大江さんの眼が光った。そしてちょっと待っていてと、本を3冊持ってきた。その瞬間、この人とは気が合うと分かった。本というものは人を表す。

話は焼畑から始まり、縄文。民俗。口火を切るとはこのことか。話が止まらない止まらない。私が今、最も興味を持っている部分に精通している方だった。

 

この景色も、まさに縄文ですよ。家の向かいの笠置山を指さす。

本州中部の標高500mぐらいは、暖温帯(照葉樹林帯)と冷温帯(ブナ帯)の中間で、中間温帯と呼ばれ、栗など多く生えます。笠置山は現在は概ねヒノキ林だけど、なだらかな北斜面はもともと栗が多く生える立地ですねと。栗といえば縄文人の食料だ。

 

気づけばあっという間にお昼の時間。お暇する予定であったが、よかったら食べていきませんかの声に甘えて、ご馳走になった。里芋とご飯を炊き、これを半ごろし(つぶして)にして丸めて焼いたいもごねもちは、このあたり、岐阜県恵那の郷土料理だ。えごま味噌、生姜だまりをつけて食べる。これが本当美味しくて、ぺろりと5つも食べてしまった。もしかすると、昔は里芋の方がお米よりも配合が多かったかもね。なんて話をしながらいただいた。


里芋もまさに縄文、と言われたので私はびっくりした。里芋はとても歴史の古い食べ物であると教えてくれた。お米よりも先に、栽培が始まった野菜だとも。主食の原点は、芋だったのだ。

芋は奥深い。今は芋といえば、じゃがいもやさつまいもを連想してしまうが、それらが入ってくる以前、芋といえば里芋のこと。

思えば芋は、飢餓を救う救世主であったり、地味なんだけれど、ずっと私たちを支えてくれている大切な存在なんだと思った。

愛媛の芋地蔵の話や、戦後の芋ごはんの話が良い例だ。これらはさつま芋の話だけれど。

 

里芋はどちらかというと地味な野菜。だけれども、いないと寂しい。

お正月の縁起物としても欠かせない存在。芋煮会も里芋だ。こういった行事に関わる食材は、昔の歴史を辿るヒントになる。

そういう意味で、今興味がある食材は鰯である。田作りや、鰯に柊、海から遠くとも、鰯をお供えする話があったりと興味深い。

 

と話は逸れたが、大江さんは終いには私の大好きな宮本常一先生の直筆を見せてくださった。どんな有名人よりも、もし宮本先生がご存命であったなら、私は今1番、この人に会いたい。そしてこの「民俗学の旅」の「私にとってのふるさと」の項が非常に好きなのだ。口に出し続けると、巡り合うものだから本当に不思議である。

興奮冷めやらぬ中、大江さんの元へ再訪すると誓った。まだまだ話し足りない。

 

帰り際、右手に広がる畑を見て、すっかり肝心の農業の話は聞きそびれてしまったことに気づく。しかし、根幹にあるものに触れることができた気がしたのと、東京での自然環境系のサラリーマン仕事から民映の自主上映会アチックフォーラムの司会、文化財保護系の仕事を経て、結局は百姓に辿り着いたという経緯は、私の心に深く刺さった。

 

今のやつらはつまらん。一つのことしかやらん。檜原村に通っていた時に出会ったおじいさんはそう言い放ち、畑から炭焼きから竹細工からなんでもこなしていたという。今考えると、それはこの辺りにもいる普通のおじいさんだったんでしょうけどねと笑った。

 

ライフワークとして人と自然の暮らしや生き方を探求しているうちに、気づいたら自身がプレーヤーになっていたという大江さんの話を聞きながら、私は自分の今歩いている道と重ねていた。

 

車は諏訪へと向かう高速へ入る。恵那といえば栗きんとんが有名で、到着した日に和菓子屋をのぞくも売っておらず、どうしても栗きんとんが食べたいと、サービスエリアを見てみるも、やはり季節はすでに過ぎてしまい、今回は食べることができなかった。空は雨から雪に変わった。





2022.2.13 

岐阜 恵那 

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